プログラム参加者・TOMODACHIアラムナイに聞いてみました!:ケイリン・ジョージ氏
今回は、2017年のTOMODACHIインターンシップ・プログラムに参加したケイリン・ジョージ氏へのインタビューです。
世界への探究心と自身の多様なバックグラウンドに影響され、ケイリンは様々な登場人物と彼らの思いがけない関係性に着目したストーリーに惹かれてきました。チャップマン大学で映画制作・監督を専攻し、学士(美術)を取得しました。現在は、ハリウッドで最高水準の映画作家で構成される制作会社Media REDにてコーディネーターを務めています。過去にはビバリーヒルズにあるThe Gersh Agencyにてテレビ・ディレクターの文芸アシスタントとして働きました。東京では国際的な制作会社であるバージンアース社に勤務し、アメージング・レース-ジャパンや丸紅株式会社といった著名なクライアントのプロジェクトを編集しました。彼女の最新の映画『Two Paper Nightingales』(2019)は学生アカデミー賞の最終選考作品に選ばれ、全米監督協会で上演されるなど、国際的な受賞作品となりました。また、彼女はShondaland x Seriesfest Women’s Directing Mentorship Programの準ファイナリストに選ばれました。ケイリンは革新的な人々と協働し、創造的な映画作家として活動し続けることに情熱をもっています。彼女の作品は、kaylinmgeorge.comとtwopapernightingales.comから見ることができます。
このインタビューは、2020年12月17日にTOMODACHIアラムナイ・インターン(2020)の三原黎香(東京)によって行われました。
Q1: 映画制作において最も素晴らしい点と最も難しい点は何ですか? また、映画制作者になろうと思ったきっかけを教えてください。
映画制作において最も素晴らしい点と最も難しい点は、どちらもそれが共同作業だということです。自分の構想を他のクリエイティブな人たちの構想と融合することは難しいですが、とても重要です。美術から衣装、音響まで、全てが連携する必要があるからです。映画制作は、たくさんのピースを組み合わせて大きなパズルを完成させるようなものだと思います。まとまりを生み出すのはとても難しいことですが、同時に、そうした融合は多くの視点を取り入れた芸術作品を生み出す素晴らしい機会でもあります。このような融合の機会は、様々な芸術分野の中でも映画特有の側面だと思います。私が映画制作者になったのは、この共同制作が大好きだからです。私は、昔から視覚的なコミュニケーションと物語を語ることに大きな魅力を感じてきました。物語の伝達と他者との共同制作、この両方を叶えたいと考え、映画という媒体を活動の場に選びました。
Q2: TOMODACHI Internship Program with Temple University での経験を振り返って、あなたにとってTOMODACHIとは何だと思いますか?
TOMODACHIプログラムでの経験は、私にとって非常に特別なものになりました。TOMODACHIを表す言葉を1つ選ぶなら、「機会」だと思います。私が東京で得た素晴らしい学びの経験は、TOMODACHIなしではあり得ませんでした。このような経験を得ることができ、本当に良かったと思います。なぜなら、そこでの学びが、その後の私の仕事に全て活きているからです。同時に、「協力」という言葉でも表すことができます。東京での経験は、私に国際的な協力の重要性を教えてくれたからです。東京で、私は自分が話さない言語で書かれた映画を監督する初めての経験に恵まれました。そしてロサンゼルスに戻ってから、私は『Two Paper Nightingales』という映画を監督しました。この映画は3つの言語で構成されていますが、私はそのいずれも話しません。このことから分かるように、東京での最初の経験は私にとってかけがえのない学びになったのです。TOMODACHIは、新たなことに挑戦する機会をくれました。そして、そこでの学びは私のその後の制作に不可欠な要素になりました。TOMODACHIプログラムからは、ここで言い尽くせないほどたくさんの影響を受けました。
Q3:プログラム中に参加したインターンシップでの経験について教えてください。東京での映画制作とハリウッドでの映画制作に違いはありましたか?
東京での映画制作は、ハリウッドでの制作と異なっていました。東京での最も大きな学びの一つは、とても狭い空間で働くことです。ハリウッドには、防音スタジオから倉庫、広い砂漠など、大きなスペースが豊富です。一方東京では、使用できる場所の広さに限りがあるため、クルーの人数や機材の量を減らさなければならないことが多いです。そのため、クルーには工夫をすることと適応能力が求められます。少ない人数で制作する時、一人ひとりが様々な役割を担わなければなりません。このように豊かな柔軟性をもった働き方は、私が東京からハリウッドに持ち帰った学びです。適応力があれば、仕事はより早く、要領良く、効率的に進みます。これはハリウッドが東京から学ぶことができる要素の一つです。両者は、様々な点において互いに学び合えると思います。
しかし、私が強調したいのは、映画制作において最も重要な要素は両方の場所で同様に存在しているということです。東京で働いている時、私は非常に才能豊かなたくさんの人と共に働き、数多くの素晴らしいストーリーに出会いました。こうした要素は、東京にもハリウッドにも生きています。才能、情熱、創造性、そしてストーリーが、映画の核です。2つの場所の映画界の間にはもちろん違いがありますが、どちらの場所でも映画制作の基礎は同じだと信じています。
Q4:受賞作映画『Two Paper Nightingales』を制作するきっかけとなったインスピレーションについて教えてください。
私は昔から民間伝承とおとぎ話に惹かれており、それがこの映画のインスピレーションになりました。多様なバックグラウンドの影響で、私は様々な場所に由来する物語を聞いて育ちました。私が聞いた多くの話の中に、私を特に魅了してきたものがあります。この話に登場する名前、場所、衣服、宗教などは、物語が由来する土地に特有のものでした。そして大学生の時、海外旅行をした友人が持ち帰った民間伝承の本を読んだところ、そこには子ども時代に聞いたものと全く同じ話が書かれていたのです。ストーリーと登場人物は同じでしたが、名前や場所は違っていました。この出来事から、世界的に優れた物語がどのように世代から世代へ口伝てに受け継がれてきたのかを考えました。人の心を打つ話は、世代や文化の違いを超えるのです。人々の間に分断と孤独が広がっている現代に、この大切なメッセージを共有したいと考えました。それが、3つの異なる文化的視点から1つのおとぎ話を語る映画『Two Paper Nightingales』を作ったきっかけです。この映画では、それぞれの国が独自のスタイルで物語を語っていますが、そこに多くの共通点が見られます。この映画は、私たちを差別化する要素よりも、私たちの共通点の方が最終的には重要だということを表しています。これが、『Two Paper Nightingales』の基礎です。この映画はとても良い評価を受けましたし、制作は素晴らしい経験になりました。
Q5: 『Two Paper Nightingales』の制作で苦労した点や刺激的だった点を教えてください。
苦労した点も、刺激的だった点も、たくさんありました。私たちチームはこの映画に対して大きな望みをもっていましたし、これは非常に大きなプロジェクトだったからです。スタッフ全員が、経験のない目標に挑戦していました。私たちはセットを3つも作りましたし、大勢のクルーとキャストを抱えていました。ダンスと音楽も、この映画に不可欠な要素でした。本当に限られた予算とリソースでプロジェクトを実行したことが、私たちによって大きな挑戦でした。それは同時に、私がとても誇りに思っている点でもあります。制作を開始した時、この映画は私たちのリソースに対して野心的過ぎると、何度も言われました。この映画を制作するためには、私たちの予算案の2倍以上の資金が必要だとも言われましたが、予算の半分で完成にこぎつけました。つまり、私たちは必要と言われた額の4分の1の金額でプロジェクトを実行したのです。私たちは、多くの仕事を自らの手で行いました。長期間の絶え間ない努力のおかげで、この目標が達成されたのだと思います。リソースはとても限られていたので、私たちはいろいろな工夫をしました。これはもちろん困難な挑戦でしたが、高い目標を設定したからこそ発揮できた自分たちの力を目の当たりにするのは本当に刺激的でした。この経験は、私の将来の制作に活かされていくと思います。
Q6: 将来の目標について教えてください。
現在、私はロサンゼルス西部に拠点を置く制作会社で働いています。今も、可能な限り頻繁に映画の執筆と監督をしています。そして将来は、国を超えた制作と監督の機会を持ちたいと考えています。TOMODACHIプログラムを振り返ると、東京で出会った大勢の優れた映画制作者と、共に仕事をした素晴らしい方々を思い出します。私のキャリアの中で、彼らとまた一緒に働きたいと思っています。私は、世界中、そしてもちろん東京で、国際協力による映画を制作したいと強く望んでいます。これは大きな目標ですが、素晴らしい結果をもたらすと信じています。ますますグローバル化していくこの世界で、もっとたくさんの国際協力が行われることを楽しみにしています。
Q7: 最後に、学生や若手社会人へのアドバイスをお願いします。
私がとても大切にしてきたことの1つは、メンターを見つけるための努力を怠らないことです。これは、私の経験において非常に大きな要素ですし、多くの業界に当てはまることだと思います。変化が絶えない映画制作において、変貌するプロセスの中での舵取りを助けてくれるメンターを見つけることはとても重要です。多くの物事は変化し続けていますし、イノベーションと技術の進歩が常に起こっていますから、将来を見通すことは非常に困難です。ですから、助言を求め、相談し、今その業界で重要なことは何かを尋ねることができる相手をもつことはとても助けになります。これこそ、メンターシップが大切な理由です。そして、メンターを見つけるためには、自分自身をアピールしていくことが不可欠です。自分で自分の良さを信じない限り、自分を信じてくれる人は現れません。新進気鋭のアーティストにとってはもちろん、どんな人にとっても、自分自身を信じ、メンターを見つけることはとても大切だと思います。