東北復興にフォーカスしたビジネスプランコンテストで大学生達が競い合う
2012年2月16日 – 3月11日に大津波が宮城県気仙沼市を襲った時、清水健佑さんの父親は自身が経営する魚の加工工場を失いました。それから約1年が経ち、父親が事業の再建を目指す中、清水さんは東北地方の復興をテーマとするビジネスプランコンテストに他の約50名の大学生とともに参加しました。
東京アメリカンセンター、慶應湘南藤沢キャンパス(SFC)イノベーション&アントレプレナーシップ・プラットフォーム研究コンソーシアムおよび慶應義塾大学SFC研究所主催、TOMODACHIによるサポートのもと、「アントレプレナーシップ・セミナーとビジネスプラン・コンテスト」が、2月8日から10日の3日間にわたって東京、神奈川で開催されました。このイベントに10校12組のチームが参加し、東北地方および北海道の大学に所属する学生が約半数を占めました。
参加した各学生チームは何ヶ月も準備に費やし、その集大成とも言えるビジネスプランをもってこのイベントに臨みました。3日間のイベントは、実際の起業家やベンチャー・キャピタリストによるセミナー受講と、それぞれ持ち寄ったビジネスプランをメンターとともにブラッシュアップしていくワークショップによって構成され、中でも優秀なビジネスプランを提案した8組は、民間企業および学界の有識者からなる審査員たちを前にプレゼンテーションを行いました。また、その中からプランの革新性、実現性、震災復興における影響力といった幾つかの審査基準において評価され、それぞれのクライテリアで表彰されました。
東京アメリカンセンターのディレクターであるアン・マッコネル氏は、「今回提案されたビジネスプランは東北地方が直面している様々な困難に対する理解を反映したものでした。被災地の方々が元の生活を取り戻し、新しいビジネスを始めるための手助けとなるような提案を作成し、展開させたいという思いがはっきりと伝わってきました」と述べました。
福島県の会津大学でコンピュータ理工学を専攻している北澤拓也さんは、自身のバックグラウンドでもあるITを活用し経済復興に役立てようと考えました。
「震災から1年が経とうとしている今、被災地で本当に必要なものは何なのかということを改めて考えることができました。また、この時期の復興に貢献するためのアプローチの方法は本当に様々なんだということを、他チームの発表から学びました。瓦礫の撤去や仮設住宅の整備などが進み、復興へ向けて一歩前進したこの時期には、いたるところに多様なニーズが存在します。だからこそ、私たちのようなITの分野を学ぶ学生だからこそできる支援、一方で他の分野を学ぶ大学の学生だからこそできる支援があり、皆がそれぞれできることがあるのだということを学びました。」と北澤さんは語ってくれました。
イベントを通して学生達は新しいアイディアを具体的なビジネスに発展させていく面白さを経験すると同時に、アイディアを実現させることの難しさやそのために必要なスキルが何か、ということも学びました。
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの清水健佑さんのチームは、起業家やベンチャー・キャピタリスト、メンター、大学がより効率的に連携し、気仙沼のビジネスや技術の発展につなげる方法を提案しました。清水さんはビジネスプランコンテストに参加する以前からこのようなアイディアを検討していましたが、その具現化までは考えていませんでした。今回のイベントに参加し、アイディアを実現するための具体的な問題に向き合うことによって、それがいかに難しいかということを感じたと言います。
「ただ、すごく可能性も感じました。もしこの問題を解決できれば、ハイインパクトが日本に広がるのではないか。それを感じることができたのが一番大きかったかもしれない」と清水さんは言います。
米国の「Give a Minute」というウェブサービスにヒントを得て、地域の生活を改善させるためのアイディアを共有するソーシャルネットワーキングサイトの作成を提案した、福島大学の船野洋平さんは、「あったらいいなと思うことと、それを行動に移し実現することの間には大きな壁がある」と言います。「それでも、アイディアを思いついたら行動に移す努力をしないといけません。時間をかけて、同じような夢を持っている他の学生と意見の交流を図ることも重要です。失敗を恐れず、情熱を見失わないように突き進むことが大事だと思います。」
船野さんのチームメイトである加藤彩さんは当初、起業には興味を持っていませんでしたが、ビジネスプランコンテストとセミナーに参加することで、若者達が自らのイニシアチブで多くのことを達成できるということを実感し、視野が広がったと言います。「夢を実現するために、積極的に行動しなければならないということを学びました。」
プレゼンテーション最終発表の結果、地域貢献度のもっとも高いビジネスプランとして、南三陸町の北部地域に対しては家事代行サービスを行い、南部地域においては津波により塩分が多く含まれた土を利用してエコブリックを製造する、という提案をした愛知学院大学のチームが選ばれました。当チームの試算によると、南三陸町において1,500人の雇用創出が見込めるとのことです。
また、もっとも革新性の高いビジネスプランとしては、相手のフェースブックのページを分析することで作成される欲しい物のリストとそれら商品の最新価格情報を提供し、それをもとに利用者がギフトを購入できるサイトを提案した会津大学のチームが選ばれました。利益の一部が東北地方の救援金として送られる仕組みになっています。
もっとも実現性の高いビジネスプランとして受賞したのは、宮城県の石巻専修大学が提案したウェブを活用しベビー用品を共有化するシステムでした。
審査員を務めた在日米国商工会議所会頭マイケル・アルファント氏は、「たくさんの若く意欲的な学生と接することで、日本の将来は明るいと感じました」とコメントしました。
また、同じく審査員を務めた東北大学大学院経済学研究科准教授の福嶋路氏は、今回参加した学生たちが今後起業家としてのスキルをより一層磨き、被災地の経済再生に役立てることを強く望んでいます。 「東北地方が必要なのは同情だけではなく、新しいアイディアやイノベーションも必要としています」と福嶋氏は・アンド・言います。
学生たちは今回のイベントで知り合ったメンターの支援を受けながら、ビジネスプランを実行に移していく機会が与えられています。
清水さんはプレゼンテーションの中で力強く語ってくれました。「TOMODACHI世代が日本の復興の力になれると感じています。あとは行動あるのみです」