プログラム参加者・TOMODACHIアラムナイに聞いてみました!:齋藤菜奈子氏
今回のインタビューは、TOMODACHI MetLife Women’s Leadership Programの卒業生であり、北海道地域の元地域メンターでもある齋藤菜奈子氏にお話を伺いました。
齋藤氏は札幌市の高校で英語の教師をしており、最近、授業で実施した2つの活動が評価されたことから、賞を受賞しました。齋藤氏は、英語を教えることを通して次世代をサポートすることに情熱を注ぎ、その目標達成のために様々な機会に参加することを激励しています。また、最近では、国際的なTOMODACHIプログラムへの参加を奨励する記事にも登場し、子どもたちや若者たちが自己実現の機会をより多く探せるよう、自身の経験を語っています。
Q1: TOMODACHI MetLife Women’s Leadership Program(TMWLP)にメンターとして参加しようと思った理由は何ですか?
子どもの頃から、もっと人生の師となるようなロールモデルのサポートがあれば本当に良かったと思っていました。自立したいと考えていましたが、自分の将来像を描くのがとても難しかったです。TMWLPのことを知った際、若い世代の能力開発のお手伝いができ、学び合い、日本中の女性たちとネットワークを作る、本当に素晴らしいプログラムだと思いました。社会に出ると、女性にはたくさんの課題があることに気づきました。学生時代は男女の違いにそこまで気づいていなかったのですが、働き始めて、女性の方が大変な面があると実感しました。女性は家庭で家族の面倒を見る責任が大きいことがあります。それらの仕事を完璧にこなすのは、本当に難しいと思います。私の場合、10年ほど前に介護のため北海道に帰って来たことで、女性にはもっとネットワークのサポートが必要だと感じました。
Q2: プログラム中での一番の思い出は何ですか?
TMWLPではリーダーシップの大切さを学んだため、実際にプロアクティブに行動することを大切にして行動したことが、一番の思い出です。私はメンティーと一緒に創造的な体験をすることを心がけました。例えば、プログラム外で、大学生のメンティーと日帰り旅行に出かけました。バスに乗り、私の知人夫婦が道央で営んでいる農場を訪ねました。UNESCOスクールの活動で知り合った、インドネシアとモザンビークからの留学生も招きました。農場見学させてもらい、北海道の農業の特色、課題、フェアトレードについて学び、新米をご馳走になり、日本語と英語で意見交換しました。直接人に会う、未知の場所へ出かけるという体験は、視野を広げるのに大いに役立つと考えています。私のメンティーは道外の出身で林業を専攻していたため、北海道と本州の植物の違いや森のことなど、色々なことを教えてくれたことがとても印象に残っています。
メンティーと一緒に活動する際には、プログラムに参加した目的や、学びを実生活でどのように活かしていくかを考え、共に行動することがとても大切だと思います。
TMWLPプログラムに参加した際、私はメンティーと一緒に創造的な体験をすることを心がけ、プログラム外では、メンティーと旅行に出かけました。私は2人のメンティーを指導しましたが、そのうちの1人は林業を専攻していました。私の友人夫婦が札幌郊外で農業を営んでいるので、メンティーと私は週末にバスで3時間ほどかけて、友人の農家を一緒に訪ねました。私のメンティーが通っていた北海道大学から2人の留学生も旅行に招待しました。一人はインドネシア、もう一人はモザンビークからの留学生でした。私達は、北海道の農業の課題やフェアトレードについて意見交換をしました。私は、本やインターネットから学ぶことと同時に、体験したり、直接人に会ったりすることも大切であると考えています。私のメンティーは北海道出身ではなかったので、友人の家を訪ねた際、北海道と本州の植物の違いや森のことなど、色々なことを教えてくれたことがとても印象に残っています。メンティーと一緒に活動する際には、プログラムに参加した目的や、今後プログラムの経験をどのように活かしていくか考えることが大切だと感じました。
Q3: プログラムで何を学びましたか?
多くの日本人は、平日、時には週末も、長時間労働しています。私も週末に仕事を家に持ち込むこともありますが、家族と過ごす時間も確保しています。若い頃は色々な人に会う時間や機会がありましたが、年齢を重ねると、それが難しくなりました。色々な人に会うために努力しなければいけないと思います。仕事に行っても、家に帰っても、同じような考えの人たちや、同じような背景や共通点を持つ人たちと出会うことが多くなってしまうからです。異なる文化的背景、性別、価値観を持つ人々と出会うことはとても重要だと思います。プログラム期間中、そして東京に行った際には、日本全国から集まったメンターやメンティーに会い交流しました。専攻も仕事も異なる人とのネットワークを持つことは、私にとって、とても重要だったと思います。彼らはグローバルな課題に興味を持っており、共にリーダーシップについて学ぶことは非常に重要なことだったと思います。日本では学校でのリーダーシップ教育があまり行われておりません。リーダーシップと聞くと、何かとても重要なことや大きなことを思い浮かべがちですが、今回のプログラムで、リーダーシップを発揮することは、誰にとってもとても大切なことだということも学びました。そして、自分が何かを決断するとき、地域社会や他の人々にとって良いものであるべきだということは、私にとってとても良い、そして重要な気づきだったと思います。
Q4: 北海道地域の地域代表としての経験はどのようなものでしたか?
私のメンティーは地域リーダーで、彼女と私、そしてTOMODACHIのスタッフが協力し、地域社会に良い影響を与えるような活動や、他のアラムナイたちとのネットワークづくりも行っていました。私にとっては、とても重要で印象的な経験でした。私たちはたくさんのユニークなアイデアを出し合いました。残念ながら、新型コロナウィルスのパンデミック期間中だったので、直接顔を合わせてイベントを開催することはできませんでしたが、オンライン・イベントをいくつか企画しました。オンライン・イベントのおかげで、道外からも多くの方が参加し、イベントの間、官民両方のセクターの人々と協力することが出来ました。私たちの目標は、自然との共生に焦点を当てることでした。あるイベントでは、アイヌ・アート・プロジェクトというグループを招待し、アイヌ語の歌とトンコリと呼ばれる独自の弦楽器を演奏してもらいました。その結果、インターネット上で多くの参加者が感動し、涙を流していました。なぜなら、彼らは北海道の自然の美しさや、私たちがそれに感謝し、調和の中で生きることの大切さを歌ったからです。そのメッセージはとても力強く、印象的だったと思います。また、私たちの企画へ、多くの方々がとても協力的であることを学びました。特に、私のメンティーである藁谷大美氏とイベントの趣旨を説明したとき、多くのゲストスピーカーが即座に「はい、大丈夫です、貢献したいです」と答えてくれた事が大変印象的でした。リーダーシップを発揮し、志を同じくする人たちとネットワークを築くことは、とても重要なことだと思います。別のイベントでは、北海道のニセコ地域の観光と自然について話していただくゲストスピーカーをお招きました。ニセコ地域には美しい山々があり、日本で最も人気のあるスキーリゾートのひとつです。ゲストスピーカーのおひとりに、片山町長をお招きしました。町長とは札幌のアメリカ領事館のイベントで名刺交換をさせていただいたことがありました。町長にお声がけした時、私と藁谷氏は、お忙しすぎて引き受けてくださるのは難しいのではないかと思っていたのですが、藁谷氏へメールを送るとすぐに 「はい、協力できます」とお返事くださいました。社会に良い影響を与えたい、若者のためにできることをしたいという方は、実はたくさん存在すると気づき、こちら側から率先して声をかけることも大切だと思いました。
Q5: 日本の学生に第二言語として英語を教えようと思った理由は何ですか?
北海道に戻る前は、アフリカのマラウイやメキシコなどで働いていました。また、東京、及びサマーインターンとしてワシントンDCでも働きました。主に子どもや若者のために働き、民間と公的セクターの両方で働きました。例えば、アフリカでは、教育委員会や教育省で子どもたちや先生のために働きましたし、国際機関でも勤務しました。私の情熱は、子どもたちや若者たちに貢献することです。また、いつか、メンターのような存在になりたいと思っています。一人の先生や親からだけでなく、様々な価値観を持つ大人たちからサポートを受けることができれば、人はもっと成長できるのではないかと考えるからです。そして、多くの子どもたちは少なからず悩みを抱えていると思います。日本でも児童虐待はたくさんあり、子供の権利が守られていないこと、ジェンダーに関係した問題もあります。だからこそ、子どもや若者をサポートしたいというのが私の情熱でした。札幌に戻ったとき、教師になる事は私にとって自然な選択でした。例えば、日本の高校では、教師は進路指導や生活指導、学校行事の運営に多くの時間を割いています。それがアメリカと日本の学校との大きな違いだと思います。ホームルーム制をとっていて、40人の生徒が1つのホームルームにいる。同じ授業を受け、教室では1人の教師が1つのホームルームを担当し、きめ細かく面倒を見ます。私は英語教師ですが、主な仕事は教育者で、大学受験のための指導やサポート、例えば日本語と英語の両方で小論文を書くこともサポートします。また、大学入試の面接試験の準備もサポートします。今は大学入試のシステムが以前ほど単純ではなくなってきているので、私は彼らととても密接に連携しています。各大学によって入試制度は異なり、プレゼンテーションや日本語での作文、英語での面接試験など、求められるものも大きく異なります。仕事も大変で、責任も重大ですが、彼らをサポートし成長や夢の実現を見るのは、私にとっても楽しいことです。また、英語教師として、海外で働いた経験から、英語を話すだけでなく、異なる文化や背景を理解することはとても重要だと考えています。そういったことから、国際的なプログラムやプロジェクトなどの導入に興味を持っています。例えば、数年前、アメリカの団体であるKizuna Across Cultures (KAC)が運営するグローバル・クラスメートに生徒を参加させました。私が受け持つ生徒はこのプログラムで、アメリカの生徒たちと交流しました。アメリカの生徒たちは日本語のレッスンを受けていたので、彼らはほぼ1年間、日本語と英語の両方で交流しました。日英両方の言語でコミュニケーションをとり、実際に手紙を交換し、ビデオ会議でも会いました。そのことが生徒たちに大きな影響を与え、今でもインスタグラムのようなSNSでアメリカの生徒たちと交流している生徒もいます。そのようなプログラムに参加した生徒の多くは、大学に進学する際に海外に留学したりしているので、今は更に世界が広がっています。最初は、「英語で書けないし、オンラインで彼らと英語で話すなんて出来ない」と言っていました。しかし、私の仕事は、ただ教え続けることではなく、機会を与え、励ますことです。一度やってみると、生徒らはそれを好きに、自分で道を見つけるのです。若い人たちのやる気を引き出し、励ますことはとても大切なことだと思います。プロジェクトの最初にアンケート回答をした際、彼らはアメリカの銃乱射事件のニュースを見て、アメリカ文化を怖がっていました。しかし、それぞれの社会には長所と短所があると知ることで、彼らはたくましくなり、よりオープンマインドになります。必ずしも留学するかどうかに限ったことではなく、異なる視点や文化を理解することが彼らの人生にとってとても重要なことだと思います。
Q6: アリゾナでの英語教育に関する会議に参加した経験について教えてください。
この会議に参加する前、私はアリゾナ州立大学のTESOL認定コースをオンラインで受講していました。そこでこの会議のことを知り、このプログラム中に世界中から集まったたくさんの英語教師と交流しました。学び合い、自分の経験を分かち合い、他の教師からも学ぶことはとても重要だと思いました。なぜなら、私が学校で仕事をしている際、自分の授業を客観視し、把握することはとても難しいからです。そこで私はこの会議に参加することを決め、その中で「日本の高校生の英語ジャーニー」というテーマでプレゼンテーションを行い、KACを含み私が英語の授業で実施した活動や、それがどのような影響を生徒に与えたのかを共有しました。また、12月には上越教育大学で日本教育実践学会の発表を行い、自分の経験や活動内容を紹介したことで、昨年10月に、日本教育公務員弘済会北海道支部の教育研究論文賞(準特選、個人・グループ研究部門)を受賞しました。論文の内容は、学校でのTOMODACHIの取り組みとファーストリテイリングのTHE POWER OF CLOTHINGプロジェクトの実践教育活動についてです。私の職場の2年生320人を対象に、藁谷大美地域リーダーと石井重成前東北地域メンターと一緒に開催した、リーダーシップを身につけるためのオンラインイベント「RISE」での、私の経験を共有しました。私は執筆や講演を通じて、他の人たちから学び、優れた実践を交換するよう心がけるようになりました。TESOLコースや英語学会に参加したことで、もっと勉強したいと思うようになり、オンライン博士課程に約4年前に入学しました。卒業まであと2年ほど残っています。
Q7: 日本では「自分は英語が話せない」という思い込みを持っている生徒が多いので、生徒が英語を話すことに自信を持ち、能力を発揮できるようにするために、どのような手法で授業を実践してきましたか?
生徒のためになる機会を見つけると、いつも応募するように勧めています。例えば、私の元生徒はスタンフォードe-JapanやGlobal Classmates Summitなどのプログラムに参加し、現在の生徒のひとりはこの冬に北海道大学から沖縄への短期研修奨学金を受けたばかりです。このようなプログラムに参加した生徒たちの前向きな変化を目の当たりにし、私たち大人は若者が新しいことに挑戦し、多様な経験をし、人生を豊かにすることをサポートできると改めて思いました。日本では年功序列を重んじるハイコンテクストな文化を持っています。日本語でも、知らない人とはあまり話さず、年上の人にも自分の意見を言わないことが多いです。ですから、日本語であっても、異なる背景を持つ人たちとコミュニケーションを取るには、多くの課題があると思います。私の授業では、普段からペアやグループで行動させたりするようにしています。また、ブレインストーミングの時間も作るようにしています。日本では40人以上の生徒が座って先生の話を聞く授業がほとんどなので、授業中他の人と交流する機会があまりありません。人前で先生に質問するのは難しいようで、質問があるときは昼休みに私のところに来ることもあるほど、人前で質問するのはとても億劫なようです。人前で話したり、自分の考えを話したりするのは、非常に難しいことなのです。そのため、彼らが自由に発言し、質問し、意見を交換できるような安全な環境を教師が作ることが極めて重要だと思います。日本の大学入試はリスニングとリーディングが中心です。大学入試に焦点を当てなければならないとすると、小テストやドリルなどで、生徒たちはリーディングとリスニングに多くの時間を費やすことになりがちですので、意図的に英語で話したり書いたりする時間を増やす必要があります。一度それを始めると、生徒たちはとても気に入ってくれます。初めのうちは、慣れないこともあり、やる気や励ましが必要なので、あまり楽しめなかったとしても、ひとたび書き話し始めると、本当に好きになります。
Q8: あなたにとってTOMODACHIとは何ですか?
私にとってTOMODACHIはインスピレーションです。東北の人々をサポートし、その支え合いの精神を広げるために始まったこのプログラムは、素晴らしいものだと思います。アメリカの人々、そして米日カウンシルに感謝しています。そして、この精神が日本全国に広がっていることにとても感動しています。私は常々、若い人たちや子どもたちにとって、メンターやネットワークシステムを持つことは非常に重要だと考えています。若者はとても傷つきやすいので、様々な大人や周りの人からのサポートが必要なのです。このような友情を持つことは、本当に人生を変えます。TOMODACHIの精神はとても美しいと思い、本当に感謝しています。
Q9: TOMODACHIや米日カウンシルが取り組める可能性があるのは、どのような社会課題だとお考えですか?
日本には解決すべき問題がたくさんあります。私にとっては、男女格差と若者や子どもたちへの支援の2つが最も重要な分野です。今、日本には男子大学生と同じくらい多くの女子大学生がいます。しかし、私が申し上げたように、彼女たちが社会に出ると、まったく違う世界が見えてきます。なぜなら、単純に男性の同僚が多いからです。少なくとも今の職場では、同僚のほとんどが男性です。私は一生懸命働いていますが、男性と同じように夜遅くまで学校に残ったり、家のことをしたり、その両方を完璧にこなそうと思ったら、病気になってしまうと思います。ですから、女性にはもっとネットワークやサポートシステムが必要だと思います。多くの女性は一生懸命働いていますがそれだけでは解決できないことがあります。また、家族と過ごす時間を増やしたいという男性も多いようです。子育てに関わりたい、家庭のことをしたいと思っている男性はたくさんいると思います。しかし、彼らには社会からのプレッシャーもあり、育児休暇を取ることが難しい現状にいます。そのため、何らかのサポートがあれば、男性にとっても女性にとっても本当に有益だと思います。また、リフレッシュやリラックスするためには、仕事以外の時間を過ごすことがとても大切で、家で時間を過ごしたり、趣味を持ったり、外出したりすることでリフレッシュでき、それが仕事にも良い影響を与えると思います。日本社会は人口が減少しているので、若者や労働者をサポートするシステムがもっとしっかりしているべきだと思います。若い人たちや子どもたちにとっても、親が一生懸命働いて疲れて帰ってくる姿や、職場や政府からのサポートがほとんどない姿を見て、自分の将来をイメージすることや、希望を持つのはとても難しいことです。また、日本の教育にはもっとリソースが必要だと思います。私の高校や日本のほとんどの高校では、40人の生徒が1つの教室で勉強しています。教室はとても小さく、1人の教師が40人の生徒を受け持つのは極めて難しく大変なことです。日本の教師の過重労働も非常に大きな問題です。ですので、学校にはもっとリソースがあるべきだと思いますし、それは生徒にも親にも教師にもプラスになります。私は生徒一人ひとりにもっと時間をかけたいと思っています。しかし、単純に時間が足りないのです。このように他の教員も感じていると思います。日本では今、出生率がとても低くなっていますので、若い人たちや子どもたちにもっとリソースを割くべきだと思います。
このインタビューは2024年3月9日にハンナ・フルトンによって行われました。ハンナは現在、TOMODACHIアラムナイ・リーダーシップ・プログラムのインターンであり、渡邉利三寄付奨学金プログラム2022-2023の修了生でもあります。