プログラム参加者・TOMODACHIアラムナイに聞いてみました!:サムサラ・カウンツ氏
今回は、TOMODACHI カケハシ イノウエ・スカラーズプログラム2018に参加したサムサラ・カウンツ氏へのインタビューです。
ソフトウェアエンジニアであり、研究者でもあるサムサラ・カウンツ氏は、テクノロジーにおける多様性の推進と、全ての人に開かれた倫理的なテクノロジーの創出を目指しています。現在、彼女はシアトルのAmazon.com, Inc.(以下アマゾン)でAlexa AIのプライバシー保証を担っています。過去には、Congress-Bundestag Youth Exchange for Young Professionalsのフェローとしてドイツに1年間滞在し、マックス・プランクソフトウェアシステム研究所のインターンとして人工知能の公正性を研究しました。彼女の研究は2018年・2019年のNCWIT Collegiate Awardsで受賞し、2018年のAIPRでBest Student Paper Presentationに選ばれました。2019年、クリエイティブ・ライティングを副専攻に、理学(コンピュータサイエンス・数学)の学士号を取得してジョージ・ワシントン大学を卒業しました。
このインタビューは、3月8日の国際女性デーを契機に、STEAM分野(科学、テクノロジー、工学、リベラル・アーツ、数学)で活躍する女性リーダーに焦点を当てる取り組みの一環です。インタビューは2021年3月30日にTOMODACHIアラムナイ・インターン(2020)の三原黎香(東京)によって行われました。
ジョージ・ワシントン大学在学中の2018年春、サムサラはTOMODACHI カケハシ イノウエ・スカラーズプログラムに参加しました。このプログラムで、彼女は他のジョージ・ワシントン大学の学生と共に沖縄を訪れ、琉球大学の学生と交流しました。彼女は、この時の沖縄での経験が、平和的で公正なテクノロジーの活用を追求する重要なきっかけになったと話します。
Q1: TOMODACHI カケハシ イノウエ・スカラーズプログラム2018で最も印象に残っていることはなんですか?
プログラムでの経験は、どれも素晴らしいものでした。その中で、私が折に触れて振り返る経験がいくつかあります。プログラムの初日、私たちは東京にある外務省を訪れ、日本の歴史と外交政策に関するプレゼンテーションを聴きました。そこで、私たち参加者は日本における平和主義という価値観について包括的な知識を得ることができました。特に、この1世紀にどのように平和主義が実践され、それに対して日本ではどのような文化的な見方があるのかを知ることができました。
続いて、私たちは琉球大学との交流の一環で沖縄を訪れ、その歴史を巡るツアーに参加しました。中でも沖縄平和祈念公園で出会った実際の戦争経験の記憶は、忘れることができません。私は心を動かされたと同時に、日本の平和主義に関する私の知識が現実味を帯びたように感じました。
平和祈念公園の中にある資料館には目撃証言や歴史の記録、戦争遺物がたくさんあり、沖縄戦の忘れることのできない記録がよりリアリティをもって迫ってきました。海を臨むこの美しい公園は、犠牲者の名前が刻まれた石碑に覆われていました。
沖縄平和祈念公園の様子(サムサラ・カウンツ氏撮影)
TOMODACHIプログラムのツアーでは、資料館と祈念公園の訪問に加えて、ある貴重な経験をすることができました。私たちは、沖縄戦を経験した吉嶺全一氏の証言を聴く機会に恵まれたのです。沖縄戦当時12歳だった吉嶺氏は、自身の経験について心をこめてお話しくださいました。彼と母、祖母は戦火で故郷を失い、爆弾の中を逃れ、攻撃に追われて島中を移動しました。語りの最後に、吉嶺氏はアメリカの元兵士と会った際の写真を見せ、彼らは自分の友人だと話しました。彼は、平和主義を実現するよう、私たち全員を激励しました。彼は、アメリカ人であろうと、日本人であろうと、国籍に関わらず私たちは皆人間であり、違いよりも大きな共通点をもっているのだと強調しました。
吉嶺氏の話に心を大きく動かされ、私は平和主義を積極的に支持していこうと決意しました。アメリカ市民として、有権者として、そしてテクノロジーの分野で働く者として、私が影響をもち得るあらゆる分野で活動しようと思いました。
Q2: TOMODACHIプログラムでの経験は、あなたの関心やキャリアに影響しましたか?
もちろんです。私は元々、社会的利益のためにテクノロジーの分野で働き、世界をより良い場所にするために科学技術の力を活用したいと考えていました。しかし、倫理的なテクノロジーの創出と科学技術による危害の軽減という目標をより確固たるものにしたのは、沖縄の訪問でした。吉嶺氏の証言を聴き、戦争がいかに大きな損害をもたらしたか、特に破壊のためのテクノロジーの使用がいかに大きな犠牲を引き起こし得るかを知った経験が、重要なきっかけになりました。
沖縄訪問の後、私は倫理、公平性、そして正義を重視したコンピュータサイエンスの研究とプロジェクトを追求しようと決意しました。私には元々、社会的利益のための機械学習の経験がありました。しかし、沖縄での経験を通して、私は本当の意味で公正性と説明責任の研究に関心をもったと言えます。技術開発の重心を、倫理と人間にとって良い結果におくことが大切です。これらは、私が現在アマゾンで取り組んでいる、プライバシーの履行と人工知能の責任という分野にとても近いと思います。TOMODACHIでの経験は、私にとって倫理とテクノロジーを追求するための大きな推進力になりました。
Q3: あなたにとってTOMODACHIとは何ですか?
私にとってTOMODACHIは、文化を超えた友情と絆です。TOMODACHIは、人と人との繋がりと理解を目指した取り組みであり、日本と、アメリカを含む世界との間のパートナーシップだと思います。
Q4: 今後への希望を教えてください。
私は、機械学習の公正と説明責任に強い関心をもっています。現在、アマゾンの顧客に対してプライバシーを履行する仕事をしていて、人工知能の責任はこれからも私のテーマであり続けます。将来的には、コンピュータサイエンスと倫理的なテクノロジーの研究者になりたいと考えています。
また、国際関係や国際政策にも関わっていきたいです。テクノロジー分野での私の専門性を、効果的な技術運用推進のためのプラットフォームとして用いることで、一般市民が悪意ある科学技術や歪められたアルゴリズムから守られるように取り組みたいと思います。
Q5: 将来、日米関係にどのように関わりたいですか?
近い将来に関して言えば、TOMODACHIプログラムで出会った友人と交流を続けたいと思います。国際的な友情を育み、取り入れていくことは、私にとってとても大切です。
より広い視野では、国際的な共同研究者たちと交流をもちたいと思っています。研究者として、日本を含め世界中の研究者と共に活動し、プロジェクトに彼らの視点を取り入れていきたいです。また、自分のプラットフォームとテクノロジーの知識を活用し、科学技術に関する日米間及びアメリカの環大西洋外交政策に情報を提供していければと思っています。
Q6: テクノロジーに関心をもつ若者を含めた次世代に向けて、アドバイスをお願いします。
まさに、勇気を出して自分の殻を破ることです。自分の関心に目を向け、自分の目標を設定し、自発的にその目標に向かっていくことが大切です。もし何かに関心があるなら、それについて学ぶために少しずつ時間を割いていくことに価値があります。インターネットで調べることでも、記事を読むことでも、自分の情熱について周囲に話すことでも良いでしょう。
人生はあっという間です。「学んだことがないから」「未経験だから」などと心配して、自分の情熱や関心を追求するのを躊躇してはいけません。これは、テクノロジーの分野では特に当てはまることです。実際、あらゆるトピックを学ための豊富なリソースがインターネットに揃っているからです。大学の授業を無料で受けたり、ブログを読んだり、オンラインのコミュニティに参加したりできます。GitHubなどのオープン・ソースの学習スペースもたくさんあり、コンピュータとインターネットさえあれば、世界のどこからでも科学技術のプロジェクトに取り組むことができます。
ですから、自分の関心に向かって最初の小さなステップを踏み出すことを恐れないでください。それは間違いなく、価値ある一歩になるはずです。